[みゅう]パリ 美術コラム  女性賛歌?『エヴァ・プリマ・パンドラ』  ジャン・クーザン みゅうパリ ブログ記事ページ

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    [みゅう]パリ 美術コラム  女性賛歌?『エヴァ・プリマ・パンドラ』  ジャン・クーザン


    2014-10-15

  • ルーブル美術館にある一枚の絵を紹介します。

     

    絵の中央には、官能的な女性が横たわっています。彼女は、裸で、陰部の部分だけ白い布で隠されています。彼女は右ひじを立てることで上半身を起こしていますが、そのひじは頭蓋骨のうえにおかれています。その手にはリンゴがついた枝を持っています。

    反対の手、彼女の左手はなにやら奇妙な形の蓋がついたツボの上に置かれています。さらに、蛇がくるくると巻き付いています。なんとも、怪しげです。

    彼女のいるところも、非常に奇妙です。洞窟のようです。洞窟は外に向かって開いており、その開口部からは、水面(海でしょうか、湖でしょうか)が広がっています。右の開口部からは、木々が、左の開口部からは都市が見えます。

     

    いったいこの絵は、何なのでしょうか。

     

    そのヒントは、絵の中にすでに示されています。実は、タイトルが絵の中に描かれているのです。

    EVA PRIMA PANDORA

    と書いてあります。これはラテン語で、エヴァは、かつてパンドラだった、と言う意味です。

    エヴァ?パンドラ?いったい誰のことなのでしょうか。

     

    エヴァとは、アダムとイブのイブのことです。英語で描くと、ADAM と EVEなので、少し近くなりますね。アダムとイブは、旧約聖書の創世記に出てくる神が一番初めに創った人間です。創世記では、神は、光、土、を作った後に、人間を作ります。アダムを土からつくり、そして、アダムの肋骨からイブを作ります。そのほかにも、動物、植物を創生し、人間にそれを支配できるようにと定めたのです。そこには、食べ物は豊富にあり、なに不自由なく生活できたそうです。そう、エデンの園ですね。

    エデンの園の中央には、知識の木というものがあり、その木からできた知識の実だけは食べてはならないと神はアダムとイブに言いました。

    さて、あるとき、イブがエデンの園を散歩しているとき、木から蛇がするするっと下りてきてイブに問いました。「神は本当にこの果実を食べるなと言ったのですか」と。イブがそうだと答えると、蛇は続けます。「これを食べたって、死にませんよ。これを食べれば、神のように目が開き、善悪を知ることになるでしょう。」

    イブは、そのとき、「神のように賢くなるのだったら食べてみようかしら」、と知識の実を食べました。美味しかったから、アダムにも勧めました。アダムも食べました。食べたとたん、彼らの目が開き、自分たちが裸であることを知って恥ずかしくおもい、陰部を隠しました。

    そこに、神が現れました。2人はさっと隠れました。神は、なぜ隠れるのか、知識の実を食べたのではないかと二人に聞きました。アダムは、とっさに「イブに食べろといわれたので」と答え、イブは、「蛇に食べろといわれました」といいました。神は、彼らをエデンの園から追放し、それ以来人間は死ぬ存在となりました。これが、旧約聖書のはじめにある創世記です。

    この話をしっていれば、この女性はイブなのだとわかりますね。彼女がもっているリンゴは、知識の実を表していて、骸骨にもたれかかっているのは、それを食べたことによって死にゆく存在になったことを示しています。彼女の左手に蛇が絡み付いているのは、蛇によって彼女はそそのかされたからでしょう。じゃあ、彼女の左手においてある壷?箱?はなんでしょうか。それが、「パンドラの箱」である、とタイトルは告げているのです。ということで、パンドラの話を紹介します。

     

    パンドラは、ギリシャ神話に出てくる人類最初の女性です。それまで、女神というものはいた。アフロディーテも、アテナもいた。男の人間もいた。しかし、人間の女性のみがいなかったのです。全能の神ゼウスは、人類初めての女性をつくるようにほかの神々に要請しました。鍛冶の神であるヘパイストスが土から、女を作り、その女にアテナは知恵を、ヴィーナスは魅力を、ヘルメスは狡猾さを与え、そして最後に神々は絶対あけてはいけませんよといって、甕(箱)を与えました。そのようにして、人類初めての女性が誕生しました。彼女はパンドーラといいますが、パン(すべての)ドーラ(おくりもの)を神々から授かったから、彼女はそう名づけられました。

    あけてはなりませんよ、といわれれば、あけたくなるのが人間というもの。パンドラはあるとき自分の好奇心に逆らえず、その箱をあけてしまう。そこからは、病気、悲観、飢餓、犯罪などあらゆる災いが飛び出した。パンドラはすぐに蓋を閉めたが、もう遅かった。それ以来人間の世界では、災厄が満ち人々は苦しむことになった、と神話は伝えています。

    この女性が左手で押さえているもの、それが、パンドラの箱(甕)です。

     

    世の中に災いがあるのは、イブのせいであり、さらに元をただせは、パンドラのせいであった。つまり、女のせいだと。まずはここまで読める。しかし、それにしては、この絵、美しすぎるとおもいませんか。本当に女性を卑下するのなら、なぜ女性をここまで魅力的に描くのでしょうか。

     

    2人とも、好奇心という同じ罪深い動機のために神の言いつけに背き、人類にあらゆる災いをもたらす元凶となりました。しかし、まさにイブが知恵の実を食べ、アダムに食べさせてたことにより自分の意思によって考え行動する人間が成立したともいえます。エデンの園を追放されたことで、自らの手で土地を耕す必要がありました。しかし、そうすることで、自らの手で文明を作り上げていったのです。それは、絵の背景によって象徴的に表されています。右は人間の手の入っていない原風景。そして、女性の後ろには、人間の手によって作られた都市が広がっています。

    確かにパンドラは箱をひらくことで、災いをもたらしたと神話は語っていますが、同時に、アテナからはそれをのりこえるための知恵を授かっているのです。文明の源泉はこの二人の女性なのだと、解釈できますね。

    彼女のポーズも意味があります。これは、単に寝そべっているわけではありません。ウルビーノのヴィーナスを模倣していると考えられます。だって、彼女はヴィーナスからは、美をさずかっているのですから、当然ですね。

     

    人間が人間として成立し、そして知恵を絞り、文明を築き、美を享受できるのは、イブと、そしてかつてはパンドラのおかげなのです。そう考えると、この女性の魅力を説明できそうな気がします。

    エヴァ・プリマ・パンドラ は、ルーブルのリシュリュー翼の2階にあります。

    (渦)

    パリ発
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