[みゅう]パリ 美術コラム 恋とはすれ違うもの?《アモルの接吻で蘇るプシュケ》アントニオ・カノーヴァ (1757年-1822年) みゅうパリ ブログ記事ページ

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    [みゅう]パリ 美術コラム 恋とはすれ違うもの?《アモルの接吻で蘇るプシュケ》アントニオ・カノーヴァ (1757年-1822年)


    2014-11-10

  • ルーブルの彫刻の中でも、ひときわ優雅さが際立つ彫刻といえば、このアントニオ・カノーヴァによる《アモルの接吻で蘇るプシュケ》です。

    横たわった女性が羽のついた少年に抱きかかえられています。彼女は、両腕を少年の頭を抱えるようにして、少年の抱擁を受け入れようとしています。彼女の両手が優しく少年の髪をなでるように、頭部に添えられています。

    羽のついた少年は、彼女をそっと抱きかかえます。題名には、接吻とありますが、彼らはこれから接吻をするのでしょうか、それともした後なのでしょうか。

    彼女を抱える少年は、羽が生えているので、ただの人間でないことがわかります。女性一人を抱えていても、まったく重力を感じません。かれが地面に触れているのは、右の足先と、左の足先、ひざがかすかに地面に触れているのみです。彼のはねは、羽ばたき続け、彼は微妙に飛翔しているのかもしれません。

    この羽の生えた少年は、矢筒を持っています。その中には、矢がいくつも入っています。この羽と矢はこの少年のアトリビュート(人物を見分けるためのしるし)です。

    この少年の名前は、ギリシャ神話の登場人物、アモルです。アモルは、美の女神ヴィーナスと軍神マルスの間にできた子供で、魔法の弓矢を持っていました。金の矢です。金の矢で射られると、射された者は、その直後に見たものに恋に落ちてしまうのです。彼は、人の愛、恋をつかさどる神様です。アモルの別名は、クピドー。そう、俗に、恋のキューピッドといわれるのが、この人物です。

    この美しい乙女は誰でしょうか。プシュケーです。彼女は、ある王様の3姉妹のうちの末娘でした。その3姉妹はみな美しかったのですが、この3番目のプシュケーは群を抜いて美しかったといいます。

    この美しすぎる末娘プシュケーは、美の女神ヴィーナスの嫉妬の対象になってしまいました。ヴィーナスは、息子のアモルをよんで、この世で最も醜い怪物と恋するようにし仕向けなさいと命令します。

    アモルはまず、神の信託を下します。

    『プシュケは人間の花嫁にはなれない。未来の夫は、山上に住む怪物だ』
    王と女王は神託に従い、娘プシュケを山に置き去りにします。

    怪物が現れたときに、プシュケーに金の矢を打ち込めば、プシュケーは醜い怪物に恋をします。それでアモルの仕事は終わり、のはずだったのですが、彼は、この娘の美しさに気をとられてしまいました。さらに、ちょっと油断をしたときに、金の矢で自分自身を傷つけてしまったのです。例え自分の魔法とはいえ、いったんかかってしまったら、自分でも解けない。ギリシャ神話の面白い所ですが、このようにして、アモルはプシュケーに恋をしてしまったのです。

    アモルは、母の命令に背き、風に化けて、山の中でしくしくと泣くプシュケーを抱き上げて自分の美しい宮殿に連れ帰りました。

    母にばれないように、アモルは、愛するプシュケーの前に決して姿を見せませんでした。夜になり、プシュケーが寝ると、そっとアモルは現れて、夜をともにします。そして、プシュケーが起きる前に宮殿を後にするのです。これが、愛をつかさどるの神様の、切ない恋物語。アモルはプシュケーに暗闇の中で言いました。決して私の顔を見てはいけませんよ、と。

    それでも、彼女は夫の姿を見たかった。自分と生活しているのは怪物だという噂も聞こえてきました。彼女は好奇心に負けます。

    アモルが眠りについたあと、彼の顔を一目見ようとそっとランプを近づけました。そこにいたのは怪物とはかけ離れた、美しいアモルの姿でした。驚いたプシュケーは誤ってランプの油をアモルの上に垂らしてしまいます。彼は火傷を負い、約束を破ったと怒りました。姿を見られたので、これ以上ここにいることはできないと、飛び去ってしまいます。

    (ルイ・ラグレネ作、「アモルを驚かしてしまうプシシェー」もルーブルにあります。)

    羽根がないプシュケーは後を追うことが出来ず、自分の過ちに落胆しながらアモルの姿を探して世界を彷徨います。そして、なんとヴィーナスに出会ってしまいます。ヴィーナスは、アモルに会いたいといっているプシュケーに、無理難題をふっかけました。地獄へ行き地獄の女王から「美の箱」を分けてもらってくるようにと命じたのです。地獄に行け、つまり、愛のために死ねということです。元々が、ヴィーナスの嫉妬から始まっているのです。容赦ありません。

    アモルに会うためプシュケーは迷わず死を選びました。地獄の女王は痛く感動し、決して開けてはいけないという約束で美の箱をプシュケーに渡して、地上に帰してくれました。

    もらった箱をヴィーナスの元へ届けようというとき、プシュケーは水面に映った自分の顔を偶然見てしまいます。そこにあったのはすっかりやつれてしまった自分の姿でした。これでは愛しのアモレに再会しても、もう私のことは好きになってくれないだろう…不安にかられたプシュケーは思わず美の箱を開けてしまいます。この箱を開ければ、以前の美しい自分にもどれるのではないかと。

    しかしその箱に入っていたのは美ではなく「永遠の眠り」でした。箱を開けてしまったプシュケーはその場で永遠の眠りについてしまいます。

    そこへやっと傷の癒えたアモーレが通りかかりました。数々の試練を乗り越え自分を追い求めるプシュケーの一途さに心を打たれたアモルは、眠りをかき集めて箱に戻し、愛のキスでプシュケーを目覚めさせます。

    そしてアモルは全能の神ゼウスに自分たちの想いを遂げさせてくれるよう取りなしを頼みました。取りなしによって不老不死の神酒を受けたプシュケーの背中には蝶の翅が生え、彼女は神の仲間入りをしました。

    フランソワ・ジェラール作「アモールとプシュケー」プシュケーの頭上には、彼女の未来を暗示するように、蝶が飛んでいる。

    この彫刻は、プシュケーが永遠の眠りから愛の接吻によって目覚めたところを表現しているのです。彼女は、いとしい人、アモルの頭をいとしく抱きかかえようとしています。そう、彼女が生き返っているということは、アモル接吻の直後だということがわかります。

    いくつもの試練を乗り越えた2人がやっと結ばれた瞬間は、大理石によって永遠になったのです。ちなみにプシュケーはギリシャ語で、「魂」という意味です。アモルとプシュケーの物語とは、愛が魂を求める物語です。

    その後、2人はどうなったのでしょうか。幸せに暮らしたそうです。

    二人の間にはこののちヴォルプタス(喜び)という娘が生まれた、と神話は結ばれるからです。

     

    説明があると、芸術鑑賞はもっと面白いですね。

    ルーブル美術館見学は、ガイド付きをぜひどうぞ。

    パリ発
    はじめてのルーブル美術館観光

     

    夜の美術館は、もっとロマンチック!プライベートなので、観たい作品のリクエストも可能です。

    パリ発
    【プライベートツアー】貸切公認日本語ガイドと行く 夜のルーブル美術館 ア・ラ・カルト ~テーマでまわるルーブルの傑作の数々~

     

    他にも美術コラム書いています。

    [みゅう]パリ 美術コラム 『モナリザ』レオナルド・ダ・ビンチ


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