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アルト・アディジェ(南チロル)
イタリアソムリエ協会のマスターソムリエの資格を持つ うしおゆにこ です。
イタリアで最も北に位置する特別自治州トレンティーノ・アルト・アディジェ州は、アルプス山脈のドロミティ渓谷を含む、山岳地帯の多い州です。
さて、イタリアは全部で20州からなりますが、ワイン業界では、トレンティーノとアルト・アディジェを分けることも多く、21地域と考えることも一般的です。州の北に位置するアルト・アディジェと、南に位置するトレンティーノでは、非常に大きな違いがあるからです。
そこで、ここでも分けて考えてみましょう。
今回は、州全体の話もありますが、南チロルと呼ばれているアルト・アディジェの方です。
一番大きな町はボルツァーノですが、もう少し行ったところにメラーノという町があり、毎年秋に大きなワインのイヴェント、メラーノ・ワイン・フェスティヴァルが行われています。
ヴィニタリーのような見本市ではなく、参加希望ワイナリーのなかから品質の見合うワイナリーを絞っているため、参加しているワイナリーはそれなりに質の高いところばかりです。ボルツァーノもそうですが、メラーノの町もとてもドイツ的な街並みです。
少し行くとオーストリアという地理と、第一次世界大戦まではオーストリア・ハンガリー帝国の領土だったということから、アルト・アディジェではドイツ語も公用語で、日常的に使われています。
つまり、この辺りではイタリア語は外国語存在なんです。
さて、アルト・アディジェのワインのキーワードは以下です。
* ラベルにドイツ語表記がある。* お値段お安めラインと高級ラインを分けているワイナリーが多い。
* DOCGはないが、DOCのワインの割合が高い。
アルト・アディジェでは、山岳地帯に川が流れ谷間を作りますが、その周辺がワインの生産地です。
寒い山岳地帯でも、川の流れが気候を緩めるので、川や大きな湖があるとブドウの栽培ができるようになります。
ブドウの栽培は、黒ブドウの方が光を要し、そこで、これだけ寒い土地では黒ブドウより白ブドウの栽培の方が向いています。その為、白ワインの生産の方が得意で、アルト・アディジェでは60%以上を占め、もちろん赤ワインも造られますが、一般的には軽めの仕上がりとなります。
ドイツ語も公用語ということから、道路表記はドイツ語とイタリア語の併記、これはワインのラベルも同じです。
それも、よく見ると、ドイツ語の表記の方が先だったり、大きかったりします。
ラベルを見てみましょう。
アルト・アディジェのドイツ語名、南チロルに加え、イザルコ川、品種の名前(グリーン・ヴェルトリーナー)もドイツ語表記です。
バックラベルもこの通りで、イタリア語の説明はドイツ語の説明の後に書いてあります。
一つのワイナリーで、ワインのラインナップを2つかそれ以上に分けることはよくあるのですが、この辺りではそれがとても顕著です。通常、ステンレスタンクを使った軽めの仕上がりのワインのラインと、樽熟成を使ったちょっとボディのある高級ワインのラインとに分けます。
樽を使うなどした高級ラインのワイン
お手軽なラインのワインを日常的に、晴れの日には高級ラインのものを選ぶなど、ちょうどうまく飲み分けをするのがオススメです。
そして、前者の生産ラインのワインは、一般にお手頃な値段で品質も良く、かなりお得!
同じワイナリーのお手軽価格のワイン
ところで、嬉しいことに、アルト・アディジェのワインは品質に対して比較的値段が安い傾向があります。その理由は、トレンティーノも含めて、協同組合による生産が多く、値段を若干でも抑えることができるからです。
他の州では、協同組合による生産のワインというと、安くても残念ながら品質がイマイチだったりするのですが、この辺りで生産されるワインは非常に高いレベルを保っています。
また、特に有名で突出したワインがあるわけではないということもあります。
何か有名なワインがあると、全体の値段が上がってしまうのも常だからです。
アルト・アディジェのワイナリーは、すごく多くのワインを造っているところが多いです。
ラインナップを2つか3つに分けた上に、いくつかの品種をブレンドしたもの、他、品種別にズラッと造るので、すごい数になります。
そこで、同じワイナリーで品種ごとに買って味の違いを比べてみるとか、同じ品種で軽めと重めのワインを比べてみるなどの試飲が、気軽に自宅でもできるので、ぜひぜひ試してみてください。
ところで、トレンティーノ・アルト・アディジェ州にはDOCGワインがありません。
DOCは9つで、アルト・アディジェの方は、「アルト・アディジェ DOC」(もう少し細かい地域名が付いているものもあります)と、トレンティーノにかかるDOCとして「ラーゴ・ディ・カルダーロ DOC」と「ヴァルダディジェ DOC」の2つがあります。
全体の生産のうち「DOCGとDOCの占める割合」というのが、州ごとの品質のバロメーターの一つになるのですが、アルト・アディジェでは98%にもなり、州全体でも90%を超えています。つまり、マイナーな州のようにも思えますが、実は、非常に品質が高いということが言えるのです。
さて、最後に品種の違いをいくつか見てみましょう。
*白ブドウ品種ーピノ・グリジョ(灰色ブドウ) 栽培面積が最も多い品種です。造り手によって、印象が大きく変わる品種で、非常に面白いです。フルーティーな感じのものもあれば、ミネラル臭が強い感じのものまであります。
ーゲヴルツトラミネル バラとライチの香りのする、華やかな女性向きのワインができます。
ーシャルドネ フランスの品種ですが、樽熟成にもよく合い、フルーティーな香りのものから樽香のあるものまで。ボディがあるタイプになると白身肉ともよく合います。
ーピノ・ビアンコ フルーツと白い花の香りがとても綺麗で、品のあるワインができます。
ーミュラー・トゥルガウ リースリングとマドレーヌ・ロイヤルとの交配種で、ドイツ由来。フルーツにミネラル臭を含み、日本料理と合わせてみても面白いです。*黒ブドウ品種
ースキアーヴァ スミレの香りの綺麗な、明るい色合いの軽めの赤ワインができます。少し冷やし
て飲むくらいの方が美味しいです。ーラグレイン ベリーの香りが強く、樽熟成にもよく合います。ボディがあるタイプになると、やや重た目の肉料理の他、食後のチーズと合わせるのも良いです。
以上、まだ他にもたくさんの品種があるのですが、品種別の飲み比べの参考にしてみてください。
では、次回トレンティーノです。どうぞお楽しみに。
【ワインのマスターソムリエが教える】イタリアで最も北に位置する特別自治州トレンティーノ・アルト・アディジェ州のワインとは!
2022-06-28
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