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フィレンツェのバルジェッロ美術館には、
ミケランジェロ作「ブルータスの胸像」があります。
古代彫刻の胸像のスタイルを取りながらも、正面ではなく
横を向いていたりとか、感情が顕になっている表情とか、
胸像の典型を逸脱した作品です。
このブルータス像のモデルとなったのはメディチ家のロレンツィーノ(またはロレンザッチョとも呼ばれます)という人物です。
ロレンツィーノはメディチ家のフィレンツェ公アレッサンドロ・デ・メディチ(暴君であったといわれます)を暗殺して、犯行後にフィレンツェから逃亡しました。
そしてアレッサンドロの後を継いでフィレンツェ公となったコジモ1世が送った暗殺者によってヴェネツィアにて殺害されてしまいます。
ミケランジェロがロレンツィーノの胸像をブルータスとして彫ったのは、共和国派(つまりメディチ家の圧政に反対する)であったミケランジェロの発想かと思っていたのですが、松本典昭著「メディチ家の至宝」には、これはロレンツィーノ自身の主張によるものだと書いてありました。
ロレンツィーノは自分の行為を正当化するために「弁明」を書いて皇帝カール5世に送りました。
その中で自分のことを「自由を圧政者から守るブルータス」になぞらえていたのです。
彼が作らせたメダルには表面に自分の横顔、裏面には「二本の剣に挟まれたフェルト帽」が刻まれていて、これは前1世紀にローマで作られた「ブルータス」のメダルと一緒なのです。
フェルト帽は解放奴隷に与えられていたため、自由のシンボルでした。
ミケランジェロはこのロレンツィーノの主張を受け入れ、彼をブルータスとして彫ったのですね。
【ブルータスの胸像】フィレンツェの巨匠ミケランジェロ
2021-08-03
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