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写真は巨匠ティツィアーノが描いた聖クリストファー。その逞しい肉体の表現の仕方にはミケランジェロの影響も感じられるとも言われている名作ですが、そこに描かれているクリストファーは1969年に聖人の地位から降格されています。というのも、巨人であった彼がこの世の中で一番強い存在に使えたいという願望を持ち、王に仕え、続いて悪魔に仕えた後、大河の渡しの役をしている時に幼な子キリストの力に触れキリストに仕えるようになるという聖人伝に歴史的な信憑性がないと判断されたためでした。もともとこの聖人伝の形成は、彼の名前がギリシャ語でキリストを運ぶという意味があることから中世に生まれた伝説であるようで、この人物の存在自体に大きな疑義が生まれたようです。
中世後半からルネサンスの頃には多くの彫刻や絵画で幼な子キリストを肩に背負う姿で表現されたこの人物ですが、伝説が信仰の対象であった時代は過ぎ去り、その信憑性ゆえに聖人格を抹消されてしまいます。昔といまでは信仰のあり方がいかに変化したかを考えさせられる一例です。
降格された元聖人のクリストファー
2016-02-12
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