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写真はベネチアのサンマルコ広場に面した市立博物館コッレールに収蔵されているアントネッロ・ダ・メッシーナ(Antonello da Messina)というシチリア生まれの画家の描いたピエタ像です。息絶えたキリストを支えているのは一般的なピエタ像にみられる聖母マリアではなく、3人の天使。キリストの顔も3人の天使の幼顔も絵具の酸化のせいか、残念ながらその表情は確認できないほど朽ちていますが、背景の空の色やキリストの肉体、腰を覆う布切れなどは大変巧みに描かれて、この画家の技量の高さを良く伝えています。
実は暫く前まではこの画家がベネチアに油絵の技術を伝えたと信じられていた時期もありました。実際、彼がベネチアを訪れた1470年代のはじめにベネチアでは油絵具の使用が始まり、時期的にも一致していたことから彼が新しい技術を伝えたと考えられていたのです。今ではベネチアでの油絵具の使用は彼がベネチアを訪れる2,3年前に始まっていたというのが定説になっていますが。
この画家はその名のとおりシチリアのメッシーナという港町の出身で、若くしてナポリに移り、絵の修行を始めます。当時のナポリはアルフォンソ1世の治下、絵画の先進地域であったフランドル地方の画家たちが集い、油絵やキャンパスのような新たな技術や素材が伝えられ始めていました。そうしたフランドル派の影響を強く受けた彼の絵画はそれまでのイタリア絵画に新風を吹き込んだのです。でもこの画家の影響は彼が執拗に繰り返したローマ、フィレンツェ、ミラノ、ベネチアといったイタリア中北部や、あるいは現在のイタリアの国境を越えて遠くプロヴァンス地方などへも出向いた意欲的な旅なしには語れないでしょう。
当時のことですから沿岸航海のような船旅が中心だったはずですが、新しいもの、知らない事柄に魅かれる強い好奇心なくしては当時の困難な旅を何度も繰り返すことは難しかったでしょう。何が彼をそこまでかきたてたのか、そして実際にどういった困難を克服しながら旅を続けていったのか、興味深いものがあります。一度その足跡をじっくりと追ってみたいものです。皆さんも御一緒にいかがですか。
15世紀後半にイタリア半島を縦断した画家
2016-02-10
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