-
今回はルーブル美術館にある傑作の1つを紹介します。
アントワーヌ・ヴァトー、18世紀を代表する画家が、1717年に完成させた油絵です。
自然の中に人々の列が見えます。手前は小高い丘になっていて、画面奥には、水辺が広がっています。人々の列はよく見ると、それぞれが男女のカップルになっています。
しかし、このような大自然の中で、一体彼らは何をしているのでしょうか。
もっとじっくり人物を見ていきましょう。
画面前景、右手前には、座っている男女のカップルが見えます。その次は女性が立とうとしているのを男性が手伝っていて、3番目のカップルは、女性の腰に手を回し画面後方の方に向かおうとしています。女性は立ち去るのを名残おしそうに後方を振り返っています。
画面後方には、カップル達の行列が続いています。
どのカップルも腕を組合い、楽しそうに会話しています。かれらはどこに向かっているのでしょうか。
彼らの行列の先には、湖、それとも海でしょうか。水辺が広がっています。画面左には、船、ボートの一部が見えます。優雅な造形が金で装飾されたうつくしく、豪華な船です。後部には大きな帆立貝が見えます。船の上には、上半身裸の船頭がいます。船をこぐための櫂を持っています。力仕事をする人物ですから、筋肉が非常に強調されています。
そう、彼らはこれからこのボートにのって船出するのでしょう。船の行き先は、そこらじゅうに飛び回っている羽根の生えた赤ちゃん(キューピッド、ピュトー)によって暗示されています。画面中央やや左のピュトーは松明をもって導いています。
そのはるか遠方には、建物が見えます。遠方には街が広がっているのです。逆を言えば、ここは人の町からは隔てられた、孤島なのかもしれません。
一体彼らはここで何をしているのか。
この絵の題名にヒントが隠されています。
「シテール島の巡礼」 です。
シテール島というのは、東地中海のキュテラ島のことですが、海の泡から生まれた愛の女神ヴィーナスが最初の流れ着いた島と言われている、美と愛の女神ゆかりの地なのです。ここに巡礼すれは片思い、失恋、不倫なんでも恋愛問題は片付くという縁結びの神社のような場所なのです。さまざまなカップルが船やって来ては、それなりの解決策を見つけて帰っていくのです。
だから、画面右端には、ヴィーナスの胸像があります。ヴィーナスのアトリビュートであるバラの花によって飾られていることでも、それがヴィーナスであるとわかります。
ヴィーナスの胸像のすぐ隣には、小さな子供が矢筒の上に座り、先ほど見たカップルの女性のドレスを引っ張っています。子供、矢筒といえば、そう、恋愛の神様、キューピッドということがわかりますね。ヴィーナスの子供と考えられています。キューピッドの助けを借りて、落ない女はいない。はじめは乗り気でなかったこの女性も、男に甘い言葉を耳元で囁かれ、ついに重い腰を上げるわけです。まさに、となりのカップルのように。
実は、この前景の3人のカップルは、服装こそ違えど、一連の物語になっているのです。
3組目のように、腰に手を回していざなう場面では、女性は既に男のモノになったようです。足元に子犬が描かれているいます。忠犬ハチ公とはよく言ったもの、犬は西洋でも忠誠のシンボルとして描かれます。女性はこの男性に忠誠を誓ったのです。
加筆のタッチは軽快かつ、繊細です。絵に根源的な迫力、力強さはないけれども、上品な艶っぽさ、賑やかさがある。近づいてみると、画家の筆触を見ることができます。
この絵を描いたヴァトーは、1684年に現在のベルギー、フランドルに近いヴァランシエンヌの屋根職人の息子として生まれました。彼の若い修行時代はよくわかっていません。20代のころパリに出てきて、画家クロード・ジロのもとで手伝いをするようになりました。クロード・ジロは、イタリア軽喜劇の主題を得意としました。仮面を使用する即興演劇の一形態で、16世紀から、18世紀のヨーロッパではやったものです。ジロに習って、ヴァトーも喜劇に関する主題で作品を残しています。彼の傑作の一つである『ピエロ』がそうです。
この作品いらい、新しいジャンルが確立されました。雅の宴、フェット・ギャラーントというジャンルです。貴族たちの繰り広げる華麗だが、切ない浮世の恋愛模様を描いた風俗画を、ヴィーナス、キューピッドの登場する神話画と絡めて、芸術の域まで高めることによって生まれましたのが、このフェット・ギャラーントと言われるジャンルです。
彼はこのような絵画によって、18世紀の雰囲気と感受性を比類ない筆遣いで描き出しました。
ルーブル美術館は、傑作の宝庫ですね。
本日紹介した作品ヴァトーの作品は、リシュリュー翼2階 18世紀フランス絵画 にあります。
他の美術コラムは
[みゅう]パリ 美術コラム 『ムーラン・ド・ラ・ガレット』ピエール・オーギュスト・ルノワール
[みゅう]パリ 美術コラム 『落穂ひろい』ジャン・フランソワ・ミレ
[みゅう]パリ 美術コラム 『風景のある聖母子』 @ペルジーノの展覧会 ピントゥリッキオ
[みゅう]パリ 美術コラム 本当は怖い アブラハム・ミグノン の静物画
[みゅう]パリ 美術コラム 女性賛歌? 『エヴァ・プリマ・パンドラ』 ジャン・クーザン
[みゅう]パリ 美術コラム ユトリロが母とすごしたアトリエ、モンマルトル美術館
渦
[みゅう]パリ 美術コラム 『シテール島の巡礼』 ヴァトー
2015-04-20
最新記事